岡上 新アグリビレッジ構想
神奈川県川崎市麻生区の岡上地域を、新たな「農とともにある暮らし」ができる地域=アグリビレッジとする将来構想。岡上地域は都心部から電車で約30分(小田急線で新宿駅から最寄りの鶴川駅まで約30分)のアクセスの良い郊外都市である。1970年代から1980年代に宅地化が進んだが、大部分が市街化調整区域と農業振興地域に指定されており、市街化区域内には生産緑地に指定されている土地も多く、現在でも豊かな自然と農村的風景が残る。北辺は東に向かって鶴見川が流れ、さまざまな水辺の生き物が生息し、西方に位置する梨子ノ木緑地には貴重な草花が自生する雑木林、里山の風景が広がる。一方、市街化区域内の斜面地や低地での宅地化は水脈や生態系を乱し、気候風土に合わない住宅が多く建てられて景観が損なわれつつある。また、市街化調整区域においても、豊かな里山を削って資材置き場や墓地・霊園が建てられ、生態系が乱され、景観が損なわれつつある。そして、少子高齢化により空き家・空き地が増え、農地や森林の管理の担い手不足の問題も深刻化しつつある。そこで、残存する谷戸地形に寄り沿い、地域の資源を活かしていけるように、水環境、資源循環ネットワーク、コミュニティを再構築していくとともに、多様な農との関わり方ができる都市近郊における新たな暮らしのビジョンを提案する。具体的には、まず谷戸と尾根を考慮して森の再生あるいは植樹を行い、土中も含めた水環境の再生を行っていく。暗渠化された川やコンクリートで囲われた水路を開放し、緑に囲まれ、脇を歩くことのできる小川に改変していく。また、少子高齢化に伴い今後住宅街に増えていく空家・空地にも植樹をしたり、植生浄化槽を設け下水インフラへの依存度を低くしていく。また、森や街路樹からは枝粗朶や落葉、竹林からは竹や筍、田畑からは野菜や果物だけでなく剪定枝や藁などの資源を得ることができる。また、隣接する住宅地からは、生ごみを集めることができ、コンポストして肥料として活用できる。また、使わなくなった家具家電や洋服も集めることができ、空き家を解体する際には解体材も資源として得ることができる。これらの資源を地域内で有効に活用できるようなアップサイクルセンターなどを適切な場所に設け、資源ネットワークの構築を行っていく。また、今後の少子高齢化を考えれば、地域の環境を地域の住民だけで扱っていくのは難しくなっていくだろう。そこで、地域外の人と共に地域の環境を育てていける仕組みをつくっていく。都市郊外でありながら豊かな自然と美しい田畑がある環境を楽しめるホテルやキャンプ場、とれたての新鮮な作物やその加工品を食べたり飲んだりできるレストランやカフェ、ファーマーズマーケット等をつくり、国内外からの観光客を誘致し、岡上の魅力を知るキッカケをつくる。水環境の改善にも寄与する井戸や生産物の直売所を道に沿って点々と設け、岡上の自然や田畑を味わいながら歩いて巡ることのできるルートもつくっていく。また、田畑での農の仕事や、作物を加工する仕事、そして森を整備する仕事などを体験できるワークショップを実施していく。ここに関わる人たちは、住民ではないけれど岡上に愛着を持って通い続ける関係人口となり、その一部は移住することもあるだろう。これにより、地域外の人との関わりの中で田畑や森を育てていくことが可能になっていく。また、岡上は里山や田畑をフィールドにした学校にもなる。現在ある岡上小学校は、子供だけではなく幼児から大人、高齢者までが学べる場にしていく。また、周辺の大学や企業がサテライトラボを構え、循環型の農や暮らしの実験場にもなっていく。新しい「農とともにある暮らし」ができる、都市郊外の新たな将来像の提案である。

term   神奈川県川崎市麻生区岡上
site     2023年7月〜
outline  岡上地域をアグリビレッジとする将来構想
keyword  水 谷戸 尾根 森 竹林 田畑 川 井戸 植生浄化槽 藁 野菜 果物 解体材 コンポスト アップサイクル 実験農場