男木島PJ
 香川県高松市に位置する男木島の唯一の寺である「道場」を保存・継承するという目的から始まった本プロジェクトは、失われたコモンズとしての役割を再構築するためのコミュニティ形成、島の過去と未来をつなぐサステナブルな実践、持続的に運営していく体制づくりをコンセプトに、第一段階として納屋を宿泊施設兼交流スペースへ改修するプロジェクト。納屋のほとんどの部材が島内外資源をアップサイクルしたもので構成され、自立型インフラが導入される。離島の明確すぎるバウンダリーが、限られた資源の課題・海を通る脆弱なインフラや垂れ流しの排水の課題・コミュニティの課題を見える化する。これを学びのポテンシャルと捉え、体験が多くの学びを生む場所として計画を進めた。

東西に細長く、南面に庭を持つ納屋を輪切りにする形で断熱部屋・三和土土間・風呂オンドル部屋と三種に区切る構成を取った。

 資源については島内だけでなく高松市まで視点を広げ、うまく使われてない資源をアップサイクルしていく。まずその一つが未利用木材である。材木の製材過程で様々な理由によって発生する未利用材を頂いてきて特徴に合わせて利用する方法を考えた。各スペースの仕切りにもなっている構造補強では虫食いや節などの理由から商品にならない野地板材(90~130mm×13mm×2000mm)を構造補強として成立させるために、強度と材効率がよいデザインを構造解析によって行った。同様にヒノキ背板の未利用材は鎧張りした風呂内壁として、剥がれなどの理由で製品にならない焼杉は外壁として利用する。

 島内資源では離島環境での資源廃棄の煩わしさに着目し、廃布団や古着を繊維の状態に戻す事で断熱材とする方法を考案した。また島内で空き家や改修が多いことに着目し、解体された土壁を土壁としてだけでなく三和土土間として利用することでコンクリートによって地面を覆わない計画としている。

 インフラについては自立型の給湯・暖房設備と排水処理設備を導入する。給湯設備では太陽熱温水器と薪ボイラーを併用することでガスの使用を大幅に削減することを可能にする。また薪ボイラーの排煙を利用した韓国の伝統的床暖房設備であるオンドルを使い、熱のカスケード利用をしている。現状、生活雑排水は海へと垂れ流しの状態となっているが、その対処として植生浄化槽を設置する。

 これらのほとんどはワークショップを重ねて島民とともに施工し、学んで行く計画であり、納屋を介したコミュニティを醸成する。失われてしまったコモンズの役割を徐々に取り戻し、道場を島民ともに残す新たな継承の方法を模索していきたい。

 利用できるのに捨てられてしまっている資源や、使った後にどうなっているか分からない水など、都市での日常では意識することがないであろうものが本プロジェクトでは見える化されるように計画した。これにより納屋は多くの学びを生み出す可能性のある場所となるだろう。

 また島民にとっても資源利用や自立型のインフラ計画は島の新しい暮らしを考えるきっかけとなるだろう。移住者をはじめとした島民は自主施工で家を改修することが多く、島内の資源を使いたいが利用方法が分からない、製品になっていないものでも安く木材を手に入れたい、といった思いがある中で、本プロジェクトを通して使えるが売れない材を抱えている材木屋とつながり男木島ならではの新たな資源利用の在り方に発展することまでを展望している。

 このように本プロジェクトはその活動を通してヒトとモノの新たな関係をつなげるという、離島をはじめとした集落の地域デザインのプロトタイプとなる提案である。

term   香川県高松市男木町
site     2022年4月〜
outline  離島のオフグリッド化,古民家改修の設計・施工
keyword  離資源循環 オフグリッド メタンガス 地域拠点 エネルギー 離島 人口減少
link          男木島図書館  男木島道場  公益財団法人 福武財団

Photo by @jumpeisudzuki
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