釜沼PJ
 千葉県鴨川市釜沼北集落の古民家けいじに付随する、かつて納屋だった木造二階建ての建物(以下納屋)をサウナ付き宿泊施設にリノベーションするプロジェクト。釜沼北集落には天水棚田や茅葺屋根と土壁の古民家、炭焼き小屋などの日本の原風景が現在も残っており、これらはNPO「小さな地球」が中心となって企画している「都市農村交流」の一環で維持・更新がなされている。納屋は、都市農村交流の一環で訪れる人達の交流(サウナ)・宿泊スペースとして利用される予定である。改修にあたり、建物の利用だけでなく改修行為自体が集落環境の維持・更新に寄与することを目指している。新たに加える材料は可能な限り集落内で調達可能な大地に還すことのできる自然素材とし、基礎・地業や外構は土中環境を痛めない計画とした。計画・施工は左官関係者やゼネコン関係者、構造系研究室の方々に助言を頂きながら進めた。
 納屋1階の一部の壁は、集落の環境整備の過程で調達可能な材料を使用でき、都市農村交流の一環で訪れる施工を専門の生業としない人(以下素人)でも施工可能な工法であることから版築でつくる計画とした。「版築」とは、伝統的な土壁工法のひとつであり、粘土や砂、消石灰などを配合した土を型枠に投入し、何層にもつき固めて積層させてつくる工法である。コンクリートと比較して製造・施工時におけるエネルギー及び廃棄物の量が極めて小さく、蓄熱性や調湿性、耐火性に優れている。本プロジェクトにおける版築壁は素人施工であることと土に還りにくい固化材を極力使用しないことを考慮して、1階の壁は開口等を設ける壁と版築壁を分ける、版築壁は足元が大きく広がった台形断面にして自立性を確保する、版築壁の中にある施工の妨げになりやすい部材(特に横材)を出来るだけ減らすことで施工性を確保する、などの工夫を行った。その他にも、型枠では版築内の部材の位置を調整することで施工を簡易にする、施工する層が高いときには柄の短い道具を利用するなど、既存躯体がある状態でも施工性を確保できるように工夫した。
 また、最大約4tの版築壁を支えるための基礎・地業は、表面を炭化させた松杭を打ち、割栗石を小端立てする伝統的な地業を行った後に、基礎となるコンクリートの縁石を据え、石の間には籾殻燻炭や藁を絡ませることで土中環境を良好に保てる計画とした。「地業」とは、建築の基礎を支えることができるように地面を加工することである。一般的なコンクリートのベタ基礎を打つことも検討したが、地面を一体として固めてしまい、水と空気の動きが遮断され土中環境に悪影響を及ぼすことでかえって長期的な地盤の安定性が確保できないこと、素人施工では品質を確保することが難しいことが懸念されたため採用しなかった。
 かつての里山は、集落の住民が薪や炭を得るために継続的に手入れをしていたことで健全に保たれていた。しかし、これからの里山は、住民だけでなく都市から訪れる人が自ら二拠点居住や一時滞在のための場所をつくることに関わることで新たな美しい地域に生まれ変わろうとしている。版築で用いた土は土中環境改善の過程にでる掘削土と納屋の改修の過程にでる壁土であり、土中環境改善や基礎地業で用いた枝粗朶や籾殻、竹などはすべて集落の環境整備の際に発生したものである。また、これらの自然素材は集落に都市から通ってくる施工を生業としない素人の手で施工したものである。本プロジェクトは、里山における都市と地方をつなぐ新たな建築の在り方の提案である。

term   千葉県鴨川市釜沼北集落
site     2021年4月~
outline  伝統集落の再生,Earth Saunaの設計・施工
keyword  サウナ 版築 自然素材 土中環境 セルフビルド 里山 都市農村交流
link          小さな地球    soil farm

Photo by @jumpeisudzuki
Photo by @jumpeisudzuki
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